最近、SNSで「1日30分しか寝ていない」という人の長時間配信が話題になりました。
「短い睡眠で平気になれたら、1日がもっと長く使えるのに」と思った方もいるかもしれません。
では、訓練すれば誰でもショートスリーパーになれるのでしょうか。
いまわかっている科学的な知見をもとに、解説します。
生まれつきの「ショートスリーパー」は実在する
結論からお伝えすると、短い睡眠でも健康に過ごせる人は、実際にいます。ただし、それは訓練の結果ではなく、生まれつきの体質です。
アメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、1日4〜6時間ほどの睡眠でも心身の不調が見られない家系を調べ、その人たちに共通する遺伝子の変化を見つけてきました。これまでに、DEC2、ADRB1、NPSR1、GRM1、SIK3といった複数の遺伝子が報告されています。2025年にも、新たな遺伝子変化についての研究が発表されました。
ただし、こうした体質の家系として報告されているのは、世界でもおよそ50家系ほどとごくわずかです。
そして研究者たちは、「訓練してショートスリーパーになることはできない」「安全な方法はないので、試すことはすすめない」と話しています。
また、こうした人たちでも睡眠時間は4〜6時間ほどです。「1日30分」で健康に過ごせることを示した科学的なデータは、現時点ではありません。
「慣れたから眠くない」は、本当?
睡眠を削る生活を続けていると、「最初はつらかったけど、もう慣れた」と感じることがあります。
実は、ここに大きな落とし穴があります。
アメリカで行われた有名な実験(2003年)では、健康な大人に1日6時間または4時間の睡眠を2週間続けてもらい、注意力や反応の速さを毎日調べました。
その結果、
- 6時間睡眠を2週間続けた人の注意力の低下は、徹夜を1〜2晩したときと同じくらいにまで進んでいました。
- それにもかかわらず、本人が感じる眠気はそれほど強くなりませんでした。
つまり、睡眠不足が積み重なっても、体は「眠い」と感じにくくなる一方で、パフォーマンスは確実に落ちていくのです。
「慣れた」「眠くない」という感覚は、必ずしも「足りている」ことを意味しません。
日本人は、もともと睡眠が短い
日本人の睡眠時間は、国際的に見てもとても短いことが知られています。OECD(経済協力開発機構)が各国の生活時間を比べたデータでは、日本は比較された33カ国の中で最も短い結果でした。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、
- 大人は、6時間以上を目安に睡眠時間を確保すること
- ただし、必要な睡眠時間には個人差があること(6時間未満で足りる人も、8時間以上必要な人もいる)
- 高齢の方は、寝床にいる時間が8時間以上にならないように注意すること
が示されています。
大切なのは「何時間寝るか」の数字そのものより、自分にとって足りているかどうかです。
もしかして睡眠不足? セルフチェック
次のようなことに心当たりがあれば、本当は睡眠が足りていないのかもしれません。
- ✅ 休みの日は、平日より2時間以上長く寝てしまう
- ✅ 昼食のあとや会議中に、強い眠気がくる
- ✅ コーヒーやエナジードリンクがないと、午後を乗り切れない
- ✅ 電車やソファで座ると、すぐに寝てしまう
- ✅ 朝、目覚ましがないと起きられない
とくに「休日の寝だめ」は、平日の睡眠不足を体が取り戻そうとしているサインです。
では、寝だめをすれば睡眠不足は帳消しになるのでしょうか。2025年に発表された研究のまとめ(レビュー)では、週末の寝だめで気分や疲れはある程度回復するものの、平日の睡眠不足の影響をすべて取り戻すことはできないとされています。また、休日に起きる時間が大きくずれると、体内時計が乱れ、かえって月曜日がつらくなることもあります。
まとめ
- 短い睡眠で健康に過ごせる「ショートスリーパー」は、生まれつきの体質で、ごくまれ
- 訓練でショートスリーパーになれるという科学的な根拠はない
- 睡眠不足が続くと、眠気を感じにくくなっても、パフォーマンスは落ち続ける
- 必要な睡眠時間には個人差がある。数字よりも「自分に足りているか」が大切
参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」/Van Dongen HP, et al. Sleep 2003;26:117-126/Chen H, et al. PNAS 2025(SIK3)/UCSF Fu教授らのFNSS研究/Sleep Breath 2025(週末の寝だめに関するレビュー)/OECD Time Use Database(2021年データ)